2009年5月31日日曜日

長期計画の危険性



『ライフハックス-鮮やかな仕事術』を読了

読みやすく面白く参考になった。またいろいろと考えさせられる本だった。一番気になった点を取り上げてみよう。

著者は本の中で、長期計画の危険性を主張している。

例えば、直接英語を使う仕事が多くない普通の社会人が、自分の英語能力を向上させるために、毎日の時間を少し使って、英語を勉強する、なんてことは無理だ。多くの人は、ストレスと戦いながら、ちょっとしたくつろぎの時間を捻出することすら難しい環境で、なんとか働いている。そこに、当面不要な勉強の時間を入れ続けるというのは、とてつもなく大変で、多くの人は挫折する。

そして彼が最も懸念するのは、挫折したことによる「がっくり」が、その人に及ぼす影響だ。そもそも難しいのだから、できなくても構わないのだが、挫折が心理的な悪影響を及ぼして、その人のもともとあった能力すら損なってしまう。

もちろん世の中にはビジョンに基づいて、長期計画を着々とこなして、自分の能力を磨ける人もいる。彼ら、彼女らは当面のやるべきことに忙殺されずに、遠い目標を見据えて、自分のライフプランニングができているだろう。

しかし、そんなことができるのは一握りの、ごく限られた人々である。世の多くの人ができないのであれば、たとえ理想的ではあっても、実効性の無い考え方と言わざるを得ない。

だから彼は、長期計画など立てるな。もっとすべきことは、そしてできることは沢山ある、と書く。

この主張はとても興味深い。

私は以前、七つの習慣とライフハックスの溝について少し書いた。ライフハックスが、表層的なテクニックばかりに終始しているのに違和感を感じて書いたものだ。
「GTD, LifeHacksと七つの習慣」

ライフハックスは、まだ、その人にとっての正しい道(七つの習慣で言う原則)を見出せていない人,見えない束縛に縛られて自由に考えることができずにいる人には,あまり役立たない。かえって焦らせて,挫折感を味あわせるだけではないかと思う、と私は書いた。

この本の中で、彼は長期計画の危険性を指摘するに留まって、その先には議論を進めていない。私なりに進めてみると、ライフハックスには表層的な工夫こそが重要、という基本的な考え方があるように思える。

もちろんミッションステートメントを定義し、それに向かってライフプランニングができ、日々着々と前進できるような人ならば、ライフハックスなどは不要かもしれない。しかしそうでない残り大勢にとって、日々の仕事・生活をささやかながら良いものにするには、ライフハックスという風邪薬こそが必要、なのかもしれない。

著者は冒頭で、ライフハックスの目標を自己実現とか、大もうけとか、そういう遠いところにおいていない。毎日のストレスを多少なりと減じて、今より少しは寛げる時間を得られるような、人間らしい生活ができるようになることが、目標だ。多くの現代人は、それすら得られていない。

七つの習慣の原則中心の考え方と、ライフハックスの対処療法中心の考え方は、根本で大きく対立している。原則中心の考え方をとれば、対処療法をいくらやっても、その人のミッションが見いだせていなければ、ただ右往左往して焦るばかり、となる。対処療法中心の考え方をとれば、原則中心に自分の人生を設計することは、とても敷居が高く、理想的ではあっても多くの人には、そんな余裕はない。それよりは、日々ストレスに苛まれている人々が、多少なりとも楽になれる処方箋を共有することが重要、となる。

答えは無いのだろうが、もう少し具体的にイメージしながら考えてみたいと思う。

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